海辺の診療所
6月2日(日)に放送されたNHKスペシャル「せんせい!おかげで生きとられるわ ~海辺の診療所 いのちの記録~」を見た。舞台は熊野灘に面した小さな町。人口200人程で、7割が65歳以上の高齢者。そこにある小さな診療所で一人の先生が地域医療を支えている。先生と人々の生活の4年間の記録である。
その先生は75歳。大きな病院の副院長から地域医療に転身して25年。ずっと小さな診療所の2階に奥さんとともに暮らしながら診療を続けてきた。地域では診療所の先生が頼りである。診療所には毎日お年寄りがやってくる。先生と顔なじみの人々はとても親しげでなごやかだ。
町の人口は少なく、高齢化が進んでいる。離れたくても離れられないのか。今更見知らぬ所へなど行きたくないと思っているか。不便であっても住み慣れた土地に住み続けている。
僻地の医師不足も深刻だ。先生は毎日の診療に加えて地域のお年寄りの家へ往診にも回る。先生の奥さんは認知症を患っており、奥さんの面倒を見ながら食事を作り、診療を続けている。大きな責任と重労働。先生といえども人間である。先生自身、心房細動の症状で4日間入院した。その間、診療所はお休みだった。
往診先の寝たきりのおばあさんは最近食事を拒むようになった。往診を繰り返した数日後、おばあさんは自宅で家族に見守られながら静かに亡くなった。この町は、このような出来事を繰り返しながら小さくなっていくのであろう。
これも日本の姿だ。多くの地域で人は減り、高齢化していく。お医者さんもいない。人々は心配しながらも今日を暮らすしかない。自治体、政府も対策を検討しているであろうが、もはや流れを変えることは難しい。悩めるすべての町を救うのは不可能だ。
海辺の堤防沿いの道を、100歳のお誕生日を迎えたおばあさんが補助カートを押しながらゆっくりと散歩していた。時にはカートに腰かけて休み、また歩き始める。のどかで平和な景色。こんな時間がいつまでも続きますように。
以上