匠の技

2022/10/25
 海外で高品質な日本製の包丁の人気が高まっているという新聞記事を見た。世界的な和食ブームやコロナによる巣ごもり需要の追い風もあり、2021年の台所用刃物の輸出額は過去最高、前年比28.6%増の約118億円。その中でも、生産量日本一を誇る関市の刃物が存在感を示しているという。切れ味や耐久性に優れているところが評価されている。日本刀をほうふつとさせる文様がある商品も人気のようだ。
 関市の刃物と聞いて連想するのが燕三条の洋食器である。これはテレビ番組で知ったのだが、ノーベル賞授賞式後の晩餐会では、燕市で作られたナイフ、フォーク、スプーンが使われているそうだ。最高の品質と認められている証と言えよう。
 岐阜県関市の刃物産業は、鎌倉時代の日本刀づくりから続いている。日本刀の製造に欠かせない良質な焼刀土と水、炭を見つけて刀匠たちが移り住んだことに始まる。
 新潟県燕三条地区の洋食器産業は、江戸時代初期に、信濃川の氾濫に苦しむ農民の副業として始まった和釘づくりが基である。近くの間瀬銅山があったことも産業の発展を支えた。
 もう何年も前の話しになるが、仕事のために日本に出張してきたフランス人がいた。彼は日本滞在中に美容師用のハサミを買いに行くと言う。美容師の奥さんからの要望とのことで、彼の日本出張中の一番のミッションだったに違いない。日本のハサミが海外の美容師にも憧れなのかと認識をあらたにした。
 刃物や洋食器は、生活になくてはならない製品であるが、産業としては地味である。きびしい時代もあったはずである。それでも何百年にもわたり伝統が引き継がれてきた。刃物であれば切れ味、耐久性、洋食器であれば使い心地、なめらかさ、光沢など、職人が技を磨いてきた。
 有名な会社が1社だけあるというのではない。多くの企業からなる地域の産業として続いていることもすばらしい。完成品までのいくつもの工程を、地域の会社、職人が分担し、お互いを信頼して協力する文化があるのだと思う。考え、工夫し、技を磨き、新しいものにもチャレンジする。そして、しっかりと後進を育成する。地域ぐるみの伝統産業がいつまでも元気でいてほしい。